グローバル機械工学人材交流プログラム

留学生の1日

機械工学専攻
高木・杵淵研究室修士2年
堀 直樹

機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 堀 直樹
留学先:スウェーデン王立工科大学(KTH)

留学までの体験記

「私が留学したのは,…だからである.それでは私の留学していた際の一日を紹介する.」こういった文章を所謂「体験記」と呼ぶと私は思っている.これらの文章はその次の年に留学する後輩たちにとって,具体的な生活をイメージし,モチベーションを上げる貴重な資料であると思う.
しかし,いざ留学するとなった時真っ先に直面する問題は,現地での生活の立て方や言語的不自由ではなく,日本での煩雑で複雑で面倒な渡航手続きの数々である.知らずに期限を過ぎてしまうと渡航に支障をきたすものすらあるにも関わらず,情報は少ない.そこで私は留学生活ではなく,留学するまでの手続きについて重点的に書きたいと思う.結論から言えば何とかなる.ただし精神安定上非常によろしくないので,早め早めの準備を強くお勧めする.
※KTHのみを対象にしています.

・概要
留学する際に必要な手続きは,大まかに分けると以下のものがある.
1. 日本政府への手続き(パスポート)
2. KTHへの手続き(Letter of Acceptance)
3. 東大への手続き(留学許可書,JASSO関連)
4. スウェーデン移民局への手続き(Residence Permit)
多少の前後はあるものの,基本的にはこの順で行った.

・史実
まずはパスポートの取得をした.そして3月末にプログラムへの応募のメールを提出し,大学院進学直後,4月頭に面接があった.私の英語面接は自分でも分かるほど壊滅的であったが,どうにか通過させていただけた.
通過するとすぐに東大の先生方への滞在期間の申請と,KTHに提出するCVの執筆が求められた.ここでの滞在期間は後でかなり変更が効くとのことだったので,ひとまず秋学期開始の9月から年末の12月までの4カ月間で申請した(後程8カ月まで延ばして頂けた,このくらい融通が利く).CVは自身の生い立ちや学部の研究,大学生活でのアピールポイントなどについてA4一枚に収まるように書いた.
その後KTHへの応募(Online Application)を開始した.1週間以内に提出しなければ今年度の参加は不可になるというかなりギリギリのものだった.必要書類が東大のどの資料に該当するのか定かでないものがいくつかあったため,国際交流チームの担当の方とメールをやり取りしながら進めた.基本的にGMEプログラムは研究室配属で研究メインの留学であるが,ほかのコースと共通の応募フォームのため,どの授業を取得するかを選択する必要がある.基本的には30単位分を適当に選択すればよいとのことだったため,修士論文,のような1つで30単位の授業を選択しておいた.5月頭に,応募が完了したことと,Letter of Acceptanceを待つように,という趣旨のメールを受け取った.
ほぼ同時期に先方の研究室とメールでのやり取りを始めた.一年前に同じ研究室に先輩が留学していたことと,日本の研究室の教授と先方の教授が懇意であったことにより,非常にスムーズに事が運んだ.またこの頃,スウェーデン移民局のResidence Permitが曲者であることを知った.しかし申請に際してLetter of Acceptanceが必要であり,その到着を待たないとどうしようもなかったため放置した.
5月中旬に航空券のことを思い出し,購入した(日本航空とFinnAirのコードシェア,成田発ヘルシンキ経由アーランダ着の往復で160000円程度であった).またほぼ同時期に,東大機械工学専攻の事務への留学申請手続きを行った.
さらにほぼ同時期にLetter of Acceptanceが届き,いよいよResidence Permitの申請を行おうとしたが,保険の加入証明が必要なことがわかり,先生方に事情を話して加入手続きを進めていただいた.結局保険証書を受け取ったのは6月頭であり,さらに銀行口座の残高証明の発行に少々手間取ったこともあって,Swedish Migration Agencyに申請完了したのは6月の中旬であった.
幸いなことに6月の下旬にResidence Permitが自宅に郵送されてきたことで,すべての手続きが完了した.

・感想
行った手続きをざっと時系列順に並べてみたが,最も気を揉んだのはSwedish Migration Agencyから発行されるResidence Permitであった.結論だけ言えば,申請から渡航許可証が家に郵送されてくるまで3週間とかからなかった.しかし移民局のHPやその他の情報では,申請から許可が下りるまで3カ月かかる場合もあると書いてあり,とにかくこれを取得することを第一目標として動くべきである.ちなみに入国審査時にこの所持を確認された.特に後述のpre-sessional English courseに参加する場合は,7月末から8月頭に渡航することになるため,最速で手続きを行ったとしても間に合わないことが十分に考えられる.申請にはKTHからのLetter of Acceptanceが必要であるため,KTHの担当者にメールを出して急かすことが必須である.
これに限らず交渉すればうまく図らってくれることが多かった.私が初めに充てられた寮は,1月で取り壊されるため3月まで居られない場所だった.基本的には変更は不可,と書かれていたが,事情を話すことで変更していただけた.限度はあるが何事も言ってみるといいかもしれない.
ただでさえ授業が多く大変な時期に煩雑な手続きを行わなければならないのはかなりストレスフルである.事前に必要事項をリストアップしたり,然るべき場所に話を通しておいたりすることが大切であると痛感した.

・必要書類
間違いや抜け漏れの可能性が高いので詳細はご自身で確認していただきたいですが,重要な2つの申請の必要書類をまとめてみました.参考になれば幸いです.
1.Letter of Acceptance (KTHのOnline formから申請)
  (ア) パスポート
  (イ) 顔写真
  (ウ) 東大の院でSセメスターに取得する授業のリスト
  (エ) Nomination for Student Exchange (要GME担当教員のサイン)
  (オ) Study Plan (KTHでの単位取得計画)
  (カ) 東大学部時代の成績証明書
2.Residence Permit (Swedish Migration Agency のHPから申請)
  (ア) パスポート
  (イ) Letter of Acceptance
  (ウ) 銀行残高証明
  (エ) 保険証書

pre-sessional English course

KTHでは(というか世界標準なのかもしれないが)9月より新学期が始まる.8月までは先生も学生も休暇中であり,キャンパス内は閑散としており,授業もほぼ行われていない.その8月に,新しく入学してくる院生(Master Course)向けに行われる英語の授業がpre-sessional English courseである.これまでGMEプログラムとしては参加した人はいなかったと聞いているので,どのようなものなのかを紹介しておこうと思う.
pre-sessional English courseは8月頭から2週間と少しの期間で行われる集中授業のようなものである.授業は平日午前中の9時から12時の間に行われる.非英語圏からの学生たちを対象にした授業と聞いていたので,よくある簡単な英会話教室のようなものを想像していたが,実際は「世界の様々な英語背景を持つエンジニアたちと英語を用いてどのように意思疎通するか」という点に主眼をおいた実践的なものであり,また各国の学生たちは最低でも日常会話なら余裕でこなせる程度のレベルであった.大教室で講義のように行われることも2.3回あったが,基本的には20数名程度のクラスに分かれて小教室で行う授業であった.一冊のテキストを軸に進めていく形であったが,先生が教える形ではなく,少数でグループを作ってディスカッションすることが多く,時にちょっとしたプレゼンテーションを行うこともあった.またほぼ毎回宿題が課せられ,量が多い時は午後の大半をそれに費やすこともあった.ある日は,2分間のスピーチ準備,BBCのリスニング,自身の研究の背景から課題設定を行う作文の3つを行ったこともあったと記憶している.
生徒はもちろん先生たちの国籍も様々であり,発音やイントネーションの違いからリスニングには結構苦労したが,よい経験をできたと思っている.また英語が母国語でない相手に理解してもらおうとする過程で自然と話す量も増えるため,スピーキングもかなりの量をこなすことができたと感じている.また幸か不幸か日本人のほぼいない環境のため,いろいろな意味で刺激になった.個人的には,論文を書く際に注意すべきポイントや,スピーキングの構成の組み方が参考になったと感じている.

所感

ここからは月並みなことを書こうと思う.ここまでで十分長くなったので端折る.
GMEプログラムでは研究室で席を頂けるので,8月末から研究生活に入った.基本的には留学生が置かれる環境は研究室によりまちまちのようである.私も留学前の話として,半放置気味の場合があったり,期間が短くあまり研究できなかったり,日本でのテーマとあまり関係の無いことを研究したり,といった例を聞いた.しかし私は幸運なことに,気軽に相談できるポスドクの方が一人ついてくださり,半年少しのまとまった時間があり,また日本で行っているテーマと非常に関連したことを行えることになった.それなりに大きい研究室だったため多くの立場の人が所属していたが,PhD以上の人々しかいない部屋を割り当ててもらうことになった.皆真面目に研究に取り組んでいる環境の中で研究の話をさせて頂いた経験は非常に楽しく充実したものだった.
夏は日本と比べてかなり過ごしやすかった.冬は北国ということもあり,毎日のように雪が降っていたが,それでも寒い日でも-10度を少し下回る程度であったし,研究室内は半袖で過ごせるほど暖房が効いていたので問題なく過ごせた.ただあまり軽く見ずに防寒はしっかりと持参した方がよい.
物価はヨーロッパの中でも高いと聞くし,実際初めの頃は驚いた.ファーストフードやコンビニ弁当(個人的には美味しくないと思う)でも千円近くするので基本的には自炊をするものらしい.私は面倒だったので食事回数を減らしたが,あまりお勧めはしない.
治安は日本と遜色ない感触であり,国民性も穏やかである.一度キャンパス近くのピザ屋にPCを忘れていったが保管していてくれたこともあった.ただものすごく運が良かっただけのようであり,移民の多い地域では盗難は日常的らしいので注意した方がよい.

最後に

スウェーデンは良い意味で雰囲気が日本と似ていて過ごしやすいと思う.KTHの大学としてのレベルも高く,アカデミアの一端を垣間見ることもでき,進路を考える上でも素晴らしい経験になると思う.またヨーロッパ(特にシェンゲン圏内)なので他国にも気軽に行けるし,よく学びよく遊べる環境であると感じた.
機会をつかめた幸運な方は是非充実した日々を過ごしていただきたい.


機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 堀 直樹

留学生の1日
2022年度
-> 精密工学専攻 伊藤高松研究室修士2年 水谷 あやな
-> 機械工学専攻 ムテルドゥ研究室修士1年 谷内田 大貴
-> システム創成学専攻 川畑研究室修士1年 諸星 璃月

2021年度
-> システム創成学専攻 髙橋研究室修⼠課程1年 森島 拓⽣

2018年度
-> システム創成学専攻 鳥海研究室修士1年 菊田 俊平
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 堀 直樹
-> 精密工学専攻 梅田研究室修士2年 岡田 有希
-> 機械工学専攻 山中研究室修士1年 樗木 浩平

2017年度
-> システム創成学専攻 村山研究室修士1年 木村 圭佑
-> 精密機械工学専攻 金研究室修士1年 森下 靖久
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 中西 紘章

2016年度
-> 精密工学専攻 梶原研究室修士1年 菊池 章
-> システム創成学専攻 福井研究室修士1年 四方 裕

2015年度
-> 精密工学専攻 小谷研究室修士1年 加藤 直之
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士1年 桐谷 絵美

2014年度
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士2年 二田 智史
-> 精密工学専攻 藤井研究室修士2年 松本 倫実

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