グローバル機械工学人材交流プログラム

留学生の1日

システム創成学専攻
髙橋研究室修⼠課程1年
森島 拓⽣

システム創成学専攻 髙橋研究室修⼠課程1年 森島 拓⽣
留学先:スウェーデン王立工科大学(KTH)

本報告記は⾃分が約半年間のストックホルムにあるKTHへの留学を通じて得たこと、感じたことを今後留学を志す後輩たちに向けて記したものです。準備期間と渡航期間はコロナウイルスがまさに流⾏している最中で⾏われたものであり海外留学はおろか旅⾏することすら不可能だったという特殊な環境の中で⾃分がどのようにして留学の準備やモチベーションを維持していたかなどを簡単にまとめました。GME プログラムに限らず留学を志望する⽅たちにとって意味のある報告記になれば幸いです。

GMEプログラムについて
GME プログラムは機械⼯学専攻、システム創成学専攻、精密工学専攻の教員の⽅々が各海外⼤学のコーディネーターと協⼒し、毎年10 ⼈前後の学⽣を留学⽣として派遣しているプログラムです。本年度(2021 年度秋学期)はコロナウイルスの影響で私を含め2 ⼈のみの派遣でした。より⼤規模な交換留学プログラムである東京⼤学全学交換留学と⽐較したGME プログラムの⼤きな特⾊としてはやはりその⾃由度の⾼さが挙げられると思います。全学交換留学では留学先⼤学で講義を受ける⽬的を持つため研究留学というよりは講義の交換留学的側⾯が強いですが、GME プログラムは⾃分で受け⼊れ研究室を探して現地で研究を⾏うという、より研究留学の側⾯が強いプログラムとなっています。現地⼤学の講義に関しても、もともとプログラムとして受講することを想定はされていませんでしたが、私のように希望があれば現地の教員との交渉次第では受講することは⼗分可能です。つまり⾃分の希望と交渉次第でかなりカスタムの幅が⼤きいというのがGME プログラムの最⼤の特⾊だと考えます。

留学準備編
主なスケジュールは下のようです。

私はGMEプログラムを知ったのが遅く、CV作成など諸々の準備の時間を⼗分に取ることができなかったため、なるべく早く準備を始めることをお勧めします。また同様の理由で受け⼊れ研究室の教授探しはプログラムに応募した直後から始めるべきです。場合によってはかなり時間を⾷ってしまう可能性もあるので早めに動き始めましょう。

スウェーデンはビサが交付されるまでの時間が本当に⻑いのでビザの申請もかなり早めにしたほうが良いです。私は8 ⽉まで本当に⾏けるのか分からずビザの申請を先延ばしにした結果、ビザの到着が出国の前⽇でかなりギリギリでした。

専攻への留学許可や東京⼤学奨学⾦はコロナ禍ならではのもので、コロナの中タスクフォースと専攻の両⽅からの承認や、もともと想定されていた奨学⾦が中⽌になったりして新しく奨学⾦を申請する必要がありました。

留学準備で最も難しく⼤事なことは研究と講義との両⽴だと思います。ただでさえ忙しい⼤学院⽣が多くのアプリケーションや書類を作る必要があるため効率よく時間を使うことが重要です。私はタスクを分別しそれぞれに優先順位をつけたり、1週間の時間の使い⽅を10 分単位で書き込めるようなファイルをエクセルで作ったりして、効率的な時間の使い⽅にかなり気を使いました。何をどの順番でどれくらいの時間でやるのかというのを明確化することが重要だと思います。

またコロナ禍で本当に⾏けるのか、直前で突然中⽌になったりしないだろうか?など⾏けることが不透明な中多くの書類を作る作業をするのはストレスが溜まりました。このような状況で重要だと感じたのは、「⾃分のコントロールできることに集中する」ということです。コロナで直前で中⽌になることを⼼配しても結果は変わりません。⾃分でコントロールできないことを⼼配してもストレスが溜まるだけですので⼀旦忘れて、⽬の前のタスクにのみ集中する良い意味で楽観的なマインドが重要と感じました。

また分からないことを分からないまま放置しないことも極めて重要だと感じました。例えばアプリケーション期限が分からないものがあったとしてそれをもやもやしたまま放置してしまうと、気づいたら期限を過ぎていたり⼗分な準備期間を設けられなかったりします。少しでももやもやしたことがあったら、先⽣⽅など担当者の⽅にメールを積極的にしましょう。

留学編
ここでは現地での⽣活で感じたこと、気づいたことをまとめます。

運よく⼤学の寮は⼤学内にある⽐較的綺麗な場所を確保することができ研究室までは徒歩5分程度でとても便利な場所にありました。⽉々寮費は6300クローネ(約8万円)程度であり、KTHの寮の中では少し⾼めだが⼀⼈部屋であることと他の寮と⽐べた清潔感や⽴地を考えると破格の値段です。また⾷費は⽉々2500〜3000クローネ(約3〜4万円)程度であり、⽉々11〜12万程度の出費で暮らしていました。以下で⽇本と現地での⽣活の⽐較を⾏いたいと思います。


まずストックホルムに来て⼀番驚いたことがオンライン決済の普及率の⾼さです。スウェーデンは現⾦流通量が世界の中で最も低い国の⼀つであり、街中でも現⾦を持ち歩いている⼈をほとんど⾒ることはなかった。このキャッシュレス化に⼤きく貢献したのがSwishというアプリです。Swishはスウェーデンの⼤⼿銀⾏6社が共同で開発したアプリで、その最⼤の特徴は個⼈間現⾦取引が無料で⾏えることにあります。個⼈間でのお⾦のやりとりはこのSwish を使うことで、スウェーデン国内のほとんどの銀⾏で無料でお⾦の送⾦を⾏えます。現在スウェーデンではほとんどの店でクレジットカードやこのSwish が使え、⼀部の飲⾷店では犯罪防⽌の観点から現⾦が使えない店舗もあります。またスーパーマーケットのレジの無⼈化も多くの場所で本格的に進んでおり、⽇常⽣活レベルで機械化が広く進んでいることを実感できました。これらの技術が広く普及している根底には国⺠の新しい技術に対する受容性の⾼さがあるのかもしれないと感じました。実際スウェーデンでは体にICチップを埋め込むことより決済にデバイスを使う必要すらない社会が⼀部で広がりつつあって、このICチップ埋め込みがスタンダードになるかはわかりませんが、少なくとも⽇常⽣活の中における新しい技術への受容性の⾼さや技術への信頼を感じる場⾯は多々ありました。⽇本に⽬を向けると、オンライン決済やクレジットカードなどキャッシュレス化が進みつつありますが、スウェーデンと⽐べてしまうと遅れていると⾔わざるをえません。理由として新しい技術に対する国⺠の受容性が低く、そして店舗が受容性の低い国⺠の⽅に焦点を合わせてしまい旧技術の選択肢をいつまでも残してしまうことで技術シフトが遅れるという悪循環に陥っていることが⼀因と考えることができます。かくいう私も留学前はクレジットカードすらもあまり使わず現⾦で⽣活していて、その理由が「なんとなく怖い」であったり「⼿数料が⾼そう」などとよく調べもせずに漠然と考えていました。留学での⽣活を通じて⽇本での⽣活を外側から客観的に⾒ることができるようになり、そのような態度に初めて気づくきっかけとなりました。今後はもっと⾃分の⾝の回りの技術に感度⾼くキャッチアップしていきたいと思います。

2つ⽬には、酒類やタバコへの厳しい規制が挙げられます。スウェーデンでは街中で売られる酒類はアルコール分3.5%以下と定められており、スーパーマーケットで売られている酒類は全てこの基準を満たすために作られたものになっています。(コロナビールは本来4.2%だがスウェーデンのスーパーでは3.5%のものが売られています) もし普通のビールやワインなどアルコール分が3.5%を超える飲料が買いたい場合はSystembolaget という国営の酒屋に⾏くしか⽅法はなく、こちらに半年もいると⽇本のようにコンビニで24時間いつでもお酒が⼿に⼊るような⽣活が恋しくなる時があります。またタバコに関しても⾮常に⾼い税⾦が課せられていて街中で吸っている⼈を⾒ることはほとんどなかったです。CM に関してもタバコや酒類のCM は厳しく制限されていました。これらの措置は国⺠の中毒や依存症を防ぐ政策の⼀環であり、スウェーデンでは政府が国⺠の健康維持に強い制限を持って取り組んでおり、酒・タバコの依存に強い危機意識を持っているということが伺えます。またこの健康意識の⾼さは欧⽶⼈のナチュラルを好む傾向からも感じることができます。⽇本の飲⾷店ではヴィーガン(菜⾷家)向けの料理は未だ少ないが、スウェーデンでは体感ではあるがほとんどのレストランでヴィーガン向けの料理が⽤意されていました。またボディソープなどの⽇⽤品でも原材料のナチュラルさを売りにしている商品が数多くあり、国家だけでなく国⺠単位での健康意識の⾼さに驚かされました。


3つ⽬として敬称などを⼀切使わず、良い意味でフランクな⽂化も私にとって新鮮でありました。私の受け⼊れ教員であるStefan 先⽣とメールでやりとりしていて、当初は呼び名をProf. Hallstrom とするのが礼儀だと思いメールで使っていたが、先⽣の⽅からそれはuncomfortable だという指摘がありそれ以来Stefan と名前で呼ぶことを⼼がけました。ストックホルムに来て知ったことだが、スウェーデンでは国全体として10年前くらいからポジションに関係なくFirst name で呼び合うことが浸透しており教授へのメールなどの⽂⾯でも敬称を付けず呼ぶことが⾃然であるそうです。この価値観は必ず〇〇教授や〇〇先⽣とつけ、役職が上の⽅には敬語を使うのが礼儀である⽇本にはなく、僕にとって新鮮な経験でした。敬語を使うことが当たり前な価値観を持つ⽇本でこの価値観を浸透させるのは難しいかもしれないが、よりラフなコミュニケーションという意味では例えばメールで「お世話になっております」や「お疲れ様です」などのテンプレートを省いて要件のみを端的に⽰すという試みも⾯⽩いかもしれないと感じました。

以上⽇本とスウェーデンの⽂化や⽣活の⽐較をして異なると感じた点を3 点ほど述べましたがこれらをまとめると、キャッシュレス化がすすむスウェーデンでは⼤⼿銀⾏が開発したSwish というアプリを国⺠のほとんどが使⽤していて個⼈間送⾦を無料で⾏うことができる。これらの根底には国⺠の新技術への受容性の⾼さや信頼の⾼さが関連しているかもしれない。また政府・国⺠の健康意識が⾼く、ヴィーガン向けの料理やボタニカル⽯鹸など⾃然を意識した商品が多い。それぞれの役職に関係なく呼び名に敬称をつける必要はなく、⽇本との違いに驚いた。敬語は⽇本独⾃の⽂化で価値観の根底にあるものなのでそれ⾃体を変えるのは難しいが、スウェーデンの会話の雰囲気とうまく融合させることができればお互いの良いところを引き出せるのではないかと感じました。

システム創成学専攻 髙橋研究室修⼠課程1年 森島 拓⽣

留学生の1日
2022年度
-> 精密工学専攻 伊藤高松研究室修士2年 水谷 あやな
-> 機械工学専攻 ムテルドゥ研究室修士1年 谷内田 大貴
-> システム創成学専攻 川畑研究室修士1年 諸星 璃月

2021年度
-> システム創成学専攻 髙橋研究室修⼠課程1年 森島 拓⽣

2018年度
-> システム創成学専攻 鳥海研究室修士1年 菊田 俊平
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 堀 直樹
-> 精密工学専攻 梅田研究室修士2年 岡田 有希
-> 機械工学専攻 山中研究室修士1年 樗木 浩平

2017年度
-> システム創成学専攻 村山研究室修士1年 木村 圭佑
-> 精密機械工学専攻 金研究室修士1年 森下 靖久
-> 機械工学専攻 高木・杵淵研究室修士2年 中西 紘章

2016年度
-> 精密工学専攻 梶原研究室修士1年 菊池 章
-> システム創成学専攻 福井研究室修士1年 四方 裕

2015年度
-> 精密工学専攻 小谷研究室修士1年 加藤 直之
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士1年 桐谷 絵美

2014年度
-> 機械工学専攻 塩見研究室修士2年 二田 智史
-> 精密工学専攻 藤井研究室修士2年 松本 倫実

留学プログラム

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